PEAKを生きる

科学の力で、能力を最大化するブログ

久しぶりの驚き。「すごい」本との出会いは偶然に。そして、哲学的疲労感とか。

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「すごい」本に出会うことは、楽しいことだ。本を読んでいて「こりゃすごい」とビックリすることは、めったにない。1年に1冊でも出会えれば、十分である。知識を広げてくれるための本は良い本だが、「すごい」本ではない。「すごい」本は、考え方が一変するような本だ。今まで考えても見なかったような視点から、物事を考えさせてくれる本が「すごい」本だ。滅多に、そんな本を読む機会を得ることができない。なぜなら、本屋においてある大抵の本は、事実を寄せ集めた内容が多く、そこに哲学が含まれることは滅多にない。

「すごい」本に出会うことは、楽しいことであることと同時に、たいへんシンドイことでもある。考え方が変わってしまうため、今までとの折り合いがつかなくなってしまう。なにが「正しい」のかが、わからなくなってしまう。最初から考え直さないといけない。特に、現代の主流の考え方が崩れた場合には、大変なことである。地盤がグラグラ揺れると、上に乗っている建物は「さぁたいへん」といった具合である。哲学的な考えを含む本は、地盤をグラグラ揺らしてくる可能性が非常に高い。楽しいが、シンドイのはこのあたりに原因がある。僕はこれを哲学的疲労感と呼んでいる。

「すごい」本を読むことに夢中になり、時間は吸い取られていく。ブログをしばらく書いてなかったのは、それが一つの理由だ。しかしそれ以上に、「何を書いたらいいのか」がわからなくなってしまうのが、問題だった。このブログは「気軽に、知ったことや考えたことを書いていこう!」と考えていただが、「気軽に」すらも難しいぐらいに悩むことになる。「こんなこと書きたい」と考えていたことも、全てブッ飛ぶのだ。哲学的疲労感も相まって、「考えることすらたいへん」という状況に陥る。気軽に書こうと思ってた内容ですら「ちょっと待てよ」と思いとどまることになるのある。

〇〇主義という哲学的な各種の主義が、思想のみならず、科学や経済学にまで大きな影響を与えていることに驚いた。〇〇主義や〇〇派などは、遠い昔のお話で、現代には関係ないもののように考えていた。だから「あなたは何主義?」と聞かれても答えることはできない。これは、宗教や政治に疎い日本人特有かもしれない。しかし、自分が何主義かを、高らかに宣言し、その立場から現代の主流(だと僕は思っている)の考え方を、木っ端微塵にしていくさまを見ると、なんだか自分までも木っ端微塵になってる感覚に襲われる。〇〇主義に育てられた覚えもなければ、〇〇主義を選ぶタイミングもなかった。生きているうちに、無意識のうちに〇〇主義になっているのだろう。教育や環境におおじて、知らず知らずのうちに、身に付いてしまう。

そんなこともあり、少々疲れていた。しかし、本を読むばっかりで、アウトプットをしなければ、インプットの質がどうしても下がってしまう。やはりアウトプットを考えながら、インプットするほうが効率がいいのだ。それに「正しいこと書かなくてはいけない」という考えがブッ飛んだのが、今回の哲学的疲労感の良いところであった。「正しいこと」にはエビデンスが必要だと思っていた(そう思わされていた)。しかし、理論や考えには、データはいらない。事象を説明できる、抽象的な考えとロジックであれば十分であり、データがないからと言って理論を否定できる訳ではない。「ではないこと」の証明は大変なのだ(これをデータがないからと言って、否定するバカがいる、ことを学んだ)。だからといって、メチャクチャなことを言うつもりはない。しかし、間違っていることも「僕はこう考えた」という話でしかなく、現状でのベストエフォートであるということでしかない(そういうつもりで、ブログは読んで欲しい)。このブログは、エッセーである。

「すごい」本による、一撃必殺で哲学的疲労感を招いたわけではないが、主犯は紹介しておきたい。その本は「まぐれ」(タレブ 2008)だ。最近「反脆弱性」(タレブ 2017)が翻訳されて話題になっていたが、一番有名なのは「ブラック・スワン」(タレブ 2009)だろう。まぐれを読んでびっくりし、全部読む羽目になった(反脆弱性が話題だったが、安くなってから古本でいいかなと思って買わずに放置しておいたのだが、すぐに取り寄せた。そして同じ著者だと気づくまでに、時間がかかった。)。そして、ブラック・スワンはなんとなく概要は知っていたのだが、こんなぶっ飛んだ本だとは思ってもみなかった(これも、すぐに取り寄せた。古本で安くなっていた)。

これらの本の中には、僕に縁がある人が登場する。それがマンデルブロだ。大学の学位も修士もマンデルブロ集合に関する研究で論文を書いている。しかし、タレブの著作を読むまで、マンデルブロが金融のリスクに関する研究をしているとは知らなかった(純粋な数学者だと思っていた。フラクタルマン)。そしてタレブはマンデルブロと共同研究をしている。なにより、ブラック・スワンはマンデルブロに捧げられている。非常に親近感がわき、一気に引き込まれる形になった。

タレブの本を読んでいて感じるのは、「まだまだ知らないことが多い」ということである。タレブの言及する哲学者を知らないこともあったし(沢山の哲学者が出てくる)、名前はしっていても著作を読んだことはなかったりする。哲学をもう少し詳しく学びたいと思ったと同時に、哲学を現実世界に落とし込んでいるタレブはすごいと感じた。それに彼は抽象化がとても上手く、言い回しも楽しいし、概念的だ。どの本も、主題として扱っているのは経済の話ではあるが、本質は哲学にあろうと思う。なかなか出会えない書籍に出会えて、楽しかったのである。

みなさんにとっての「すごい」本は、どんな本だっただろう?僕にも何冊かあるので、ゆっくりと思い出しながら、機会があれば紹介したいと思う。

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  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ,望月衛,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/06/22
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