「完全無欠コーヒーはいいぞ」と、このブログでは完全無欠コーヒー推しだ。しかし、最近話題の健康本である「 世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」(以下、究極の食事)では、バターコーヒー(完全無欠コーヒーの意味で使われているみたいだが、多くの人はコーヒーにバターを混ぜたものと勘違いしている。それは間違いだ)を否定している。バターコーヒーは「病気になるリスクが増えてしまう可能性がある」とまで言ってるのだ。では、詳しく見ていこう。
- 作者: 津川友介
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/04/13
- メディア: 単行本
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最強の食事への批判
究極の食事では、初っ端から「シリコンバレー式自分を変える最強の食事」(以下、最強の食事)を大々的に批判するところから始まる。本のタイトルからも分かるように、究極の食事は最強の食事を意識している。そして、自分が究極>最強であることを誇示するために、最強の食事を批判している。
では、批判の内容を洗いざらい引用する。とても、バカらしい、エビデンスもない批判だ(著者はエビデンスにこだわり、メタアナリシスが大好きだ。であれば、批判もエビデンスを元に批判すべきだ)。
「シリコンバレー式自分を変える最強の食事」は日本では一次話題になったが、残念ながらこの本に書かれている食事行っても健康になると考えにくい。この本で説明されている内容の多くが科学的根拠に基づかないものだからである。この本の著者であるデイヴ・アスピリーが自分で体験してみて、調子が良くなったと感じた食事を紹介しているだけで、それが病気にならないという意味で健康的であるわけではないのである。
この本に書かれた食事を取り入れれば、なんとなく頭がすっきりする効果のあるかもしれないが、病気になるリスクが増えてしまう可能性があることに注意して欲しい。
例えば、この本では、グラスフェッドバターを入れたコーヒーを飲むことが推奨されている。ときに、バターとオリーブオイルが同様に「体に良い油」として紹介されていることもあるが、それは間違いである。同じ油でも、オリーブオイルは健康に良い油であり、バターは体に悪い油であることが数多くの研究からわかっているからだ。
とこんな感じだ。要点をまとめると以下の三点だ。
- 最強の食事には、エビデンスがない・著者の主観である
- 健康的ではない・病気のリスクが増える
- バターは不健康だ
バターは体に悪い?
つまり、バターは不健康だというエビデンスを元に、バターコーヒーは不健康だと主張している。では、そのエビデンスはどうか? 究極の食事の注釈を見てみよう。この注釈にバターがいかに体にわるかが書いてあるはずである。しかし、これが、面白いことになっている。
バターが体に悪いという考え方は、もともと悪玉コレステロールをあげるからという観察研究に基づいている。実は、バターの摂取量と病気のリスクとの関係に関するエビデンスはそれほど強くない。2016年に発表された観察研究をまとめたメタアナリシスによると、バターの摂取量が小さじ一杯増えることに全死亡率がごくわずか(1%)であるが統計的に有意に上昇した。一方で、バターの摂取量と心筋梗塞や脳卒中との間には関係が認められなかった(そして、バターの摂取量が多い人ほど糖尿病のリスクが低いという結果が得られた)。
バターは悪玉コレステロールを上げるかもという観察研究あったのだが、2016に発表された最新の研究では病気のリスクはほとんどないよ!という結果になったというのだ。つまり、バターは体に悪くないという結論だ。あれ、言ってることが違いますね? どちらかというと糖尿病のリスクが低いというポジティブな結果のほうが目につく。
ちなみに、死亡率が1%上昇しているが、この論文の著者は以下のように語っている[1](パレオな男さんの翻訳を引用)。
今回の系統的レビューとメタ分析は、バターと死亡率、心疾患、糖尿病のあいだには、ほとんど関係がないことを示している。
多くの食事ガイドラインでは、バターの消費量を減らすか増やすかで論争があるが、どちらにもこだわらなくてよさそうだ。
なので、本文中の「バターは悪い油」という記述は、間違い! しかも、それを自ら記述しているのだ。なんとも、バターに関しては不思議な構造になっているのが究極の食事という本だ。
グラスフェッドバターは体に良い?
さて、バターは体に悪くない。そして、もっというと、最強の食事で勧められているのはバターではなく、グラスフェッドバターだ。グラスフェッドバターには、酪酸が多く含まれており、マウス実験ではあるが体脂肪率が減少することがわかっている[2] 。
酪酸には食後の血糖やインシュリンの上昇をおさえたり、空腹時の血糖値を低くしてくれる働きも認められてまして、アンチエイジングへの効果はほぼ間違いなさそう
さらに、発酵バターはより多くの酪酸が含まれる。iHerb(アイハーブ)では発酵グラスフェッドバターのギーが売っている。
そもそもバターについて言及している時点で、批判の対象は間違っている。最強の食事がオススメしているのは、グラスフェッドバター。グラスフェッドバターが体に悪いという研究を持ってこないことには、最強の食事への正しい批判にはならない(それがないから、バターの一般的な研究を持ってきたのは理解できるが、それから否定できることではない)。そして、デイブもすべてのバターが良い、と言ってるわけではない。
最強の食事にエビデンスはないのか
さて、もうちょっとだけ。「最強の食事には、エビデンスがない・著者の主観である」と主張しているが、それは大いに間違いである。原著を読めば分かるが、大量のエビデンスが付随している本である(翻訳本でも、エビデンスがあるところには数字が振ってあり、エビデンスを探せるようになっている。リファレンス集はこちら)。
もちろん、最強の食事がリファーしている論文は、メタアナリシスやランダム化比較試験などのちゃんとした論文ばかりではない。生化学的な実験や、動物実験も多い。人間に当てはめたらどうか?という疑問は残る。ただ、最強の食事は多くの医者の本を参考にしていたり(本文中に引用されている)、インタビューを元にしている(インタビューは、Bulletproofのブログを見れば分かる)ので、それなりに信用できる。
最強の食事はストーリーテリングだ
ちなみに、「著者の主観である」と言いたい理由はわかる。なぜなら、最強の食事は、著者のストーリーとして、多くが語られてるためだ。「グラスフェッドバターを利用したときだけ、気分がスッキリした」のような記述が多い。しかし、これは著者のパフォーマンスにすぎない(いわゆるストーリーテリングだ。事実を並べただけの本は面白くない!)。基本的にはちゃんとエビデンスがある。そして、エビデンスがない時は「まだエビデンスはないが」のような記述は見受けられる。
最強の食事を批判するにはエビデンスが足りない
とこんな感じで、究極の食事の最強の食事批判には、反対する。大々的に最強の食事を批判しているわりには、エビデンスが弱すぎる。エビデンスが重要なら、もう少し意味のある論文を引用してもらわないと、批判にすらなっていない(健康に悪いというエビデンスが本当にあるなら、それはとても欲しい)。そして、バターは体に悪いは、間違ってるので、修正していただきたい(悪い、とは言い切れないという論文がエビデンスなので)。
究極の食事は、ほぼ地中海料理だ
最後に、究極の食事という本は、悪い本ではない。多くのエビデンス(しかも多くはメタアナリシスやランダム化比較試験というエビデンスの強い根拠)にもとづき、現時点で良い食とはどういうものか?を教えてくれる。結論としては、地中海料理が良いよ、という本であるが、オススメである。
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バイオハック
まぁ、ただ、最強の食事をディスるのは許せん。そもそも、最強の食事がやってることは、「バイオハック」であり、みんなにある程度良いことを目的にしている健康法ではない。それに、健康になるというよりは、ハイパフォーマンスが一番の目的だ。なんとなく病気になりにくい健康っぽいことを目的にしてない。そのあたりも目線の違いだろう。
個人的には「バイオハック」という考え方が好きだ。エビデンスには基づくのは基本なのだが、時には個への最適化や試行錯誤などを繰り返し、目的を達成していく。統計では捉えられない、実践の道なのだ。最近、翻訳された「HEAD STRONG」も最高に面白いので、まだ読んでない人はぜひどうぞ。
- 作者: デイヴ・アスプリー,栗原百代
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- 作者: デイヴ・アスプリー,栗原百代
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